韓国語で本を読む

韓国語で本を読む

韓国小説や韓国語学習書籍を紹介するブログです。

『夏が僕を抱く』(豊島ミホ)「不良」になるって意外に大変

昔から恋愛小説が苦手で、ほぼ読んだことがありません。

 

いい歳してアレなんですが、物語の中で「セックス」という言葉がリアリティのある使われ方をしてると、一気に冷めてしまうんですよね。

小説の中だけではいつまでも夢を見ていたいというか。

 

恋愛がメインの小説でも、ファンタジー要素が入っていたり、「実際こんなんないやろ〜」と思うくらいピュアッピュアな恋愛なら読めるんです。

 

・・・というような偏見のせいで、豊島ミホさんの作品も読んだことがありませんでした。

 

今回は三宅香帆さんが著書の中でおすすめされていたので、なんとなく借りてきました。

 

読んでみてやっぱり苦手だなと思ったら途中放棄しようと思いながら。

 

・・・結果、数時間で読破してしまいました。

 

 

 

苦手な「セックス」という単語もばっちり出てくるし、登場人物たちのキャラクターや置かれた環境も決して前向きなものではないんですが、読後の謎の爽やかさ。

 

 

『夏が僕を抱く』は、「男女の幼なじみ」をテーマにした短編集で、6つの物語が収録されています。

 

もう最初の「変身少女」で、心臓をガシッと鷲掴みにされました。

 

家族を除くと、自分が一番近いと思っていた人が知らないコミュニティにいるのを見たときの、なんともいえない寂しさ。

 

姉に彼氏がいると初めて知ったときの複雑な気持ち。

 

仲の良いいとこにも、自分の知らない母方(または父方)のいとこがいて、「いとこ」という特別枠にいるのが自分だけじゃないことに気がついたとき。

 

嫉妬というほど大袈裟なものでもないし、言葉では表現できないけれど、胸に残ってしまうモヤモヤ感。

 

そこに「男女」という要素が加わると、モヤモヤはさらに大きくなります。

 

 

思春期の女同士って、周りと足並みを揃えることに必死と言うか、思春期の進行スピードさえも所属するコミュニティによるところが大きいと思うんです。

 

少し前まで一緒に走り回っていた幼なじみが、いつの間にか初体験も終えて大人への一歩を踏み出している。

 

本書の主人公はみんな「置いていかれる側」で、置いていかれることへの寂しさや焦りが巧みに描写されています。

 

でもあれって不思議と「置いていく側」には置いていっているという意識はないんですよね。

 

自分が「置いていかれる側」になったら焦るくせに、「置いていく側」になったときはそんなことすっかり忘れてしまう。

 

 

 

 

私の一番好きな作品は「遠回りもまだ途中」なんですが、一番好きなシーンは「変身少女」の主人公が、スカートの丈を短くしたいとお母さんに頼むシーンです。

 

結局お母さんのお許しは出ず、主人公は自力でどうにかしようとミシンと格闘するんですが、結果スカートはぐちゃぐちゃになってしまうという。

 

えらいことになったスカートを見たお母さんに怒られてえんえんと泣くところなんて、みっともないなと思いながらも、数ヶ月前までランドセルを背負った小学生だったことを思えば納得だし、自分もまさにこんな感じだったなと気恥ずかしくなったりもします。

 

私も、親に黙って突然髪を金髪にしたことがあるんですが、金髪になった娘を見たときの母の絶句した表情と、その後の怒りっぷりは一生忘れられません。

しかも初めてのブリーチは上手く染まらず、金というか黄色になってしまっていて、当時からの友達には今でもネタにされています。

 

今思うと、中学で目立つグループにいたミニスカ女子たちも、こんな感じで親に怒られたり泣いたりしながら、なんとかミニスカを維持してたのかな、なんて思うと微笑ましくなったりもします。

 

 

 

 

ミニスカ奮闘エピソードからも分かる通り、本作品に登場する思春期男女たちはみんな「可愛いらしい」んですよね。

 

擦れていないというか、擦れようと頑張っている姿がむしろ応援したくなる。

 

だから私のような恋愛小説に偏見を持った人間でも楽しく読むことができたんだと思います。

 

 

ピュアな恋愛物語にときめけなくなった方、だからと言ってセックスや哲学を語る恋愛小説は苦手、という方にぜひ読んでもらいたい作品です。

「愛する源氏物語」(俵万智)古典に苦しむ学生たち、今すぐ読んでみて。

オリラジの中田敦彦さんのYoutubeチャンネル「中田敦彦Youtube大学」が大好きで、特に文学編は何周もしてしまうほど視聴しています。

 

文学編の中でも特に好きな動画が「源氏物語」です。

 


www.youtube.com

 

受験勉強のときざっくりあらすじだけは勉強した記憶はあるんですが、なんせ登場人物が多くてすっかり忘れてしまっていました。

 

中田敦彦さんの動画であらすじを知り、改めてその面白さに惹かれ、今回はこちらの本を選びました。

 

俵万智さんの「愛する源氏物語です。

 

中田敦彦さんが『源氏物語』のあらすじをざっくり面白く解説しているのに対し、俵万智さんは作品の中で登場する和歌に注目して源氏物語の世界を解説されています。

 

なので、人物説明についてはばっさり省かれています。

源氏物語のあらすじや登場人物の予備知識がない方はこの本の面白さが半減してしまうので、ぜひ中田敦彦さんの動画であらすじと各キャラクターの知識を頭に入れてから読んでみてください。

 

 

いざ図書館で借りてきたはいいものの、和歌の知識がまったくない私には少しハードルが高いのでは・・・と心配していたのですが、最初の章でがっつり引き込まれ、一気読みしてしまいました。

 

 

◆「古典は共感できないからつまらない」と思うのはまだ早い

「愛する源氏物語」の第1章では、かの有名な「源氏物語」の冒頭の一節「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、〜」について解説されるのですが、この解説がいきなり面白い。

 

俵万智さんが注目したのは「なぜ桐壺更衣より身分の高い女性たち以上に、彼女より身分の低い女性たちの方がより激しく彼女を憎んだのか」ということ。

 

そういえば、高校生のときに授業で古典の先生がこの感覚について説明してくれていた気もするのですが、「昔の人の感覚はよくわからん」という思い込みがすでに出来上がってしまっていたため、スルーしてしまっていました。

 

以下は引用文です。

 

 つまり嫉妬とは、そういうものだ。と作者は考えている。分不相応な幸せを手にしたものに対して、その人と同じくらい分不相応の人間が、もっとも強く妬みの気持ちを抱くのだ、と。

 現代におきかえれば、たとえば、人気絶頂のスポーツ選手が、誰かと結婚したとする。その状況だけで、いやおうなく嫉妬はされるだろうが、相手の女性が、才色兼備で性格もよさそうな場合なら、そうでもない多くの女性たちは、まあしかたがないと思うだろう。が、それほど美しくもなく、頭がよさそうでもない人が結婚相手だった場合、より多くの女性が嫉妬する。私のほうが、よっぽど綺麗だわと思っている美人はもちろん、同じくらいの器量の女性たちは、さらに心が穏やかでない。

 

そういえば、むかし友人が「彼氏の元カノの写真を見せてもらったら、私より不細工だった!むかつく!」と、それはもう長いこと腹を立てていました。

嫉妬の経験があまりない私は「そこは普通安心するとこなんちゃうの?」なんて思っていたのですが、要はこういうことなんですね。

 

「現代人には理解できない感覚」と思い込んでいた古典文学ですが、それは文化や風習の違いからくるものだけの話であって、根底にある感情や感覚そのものは、今の私たちと同じなんだと思い知らされました。

 

 

◆「和歌が上手な人・下手な人」を現代の感覚で置き換えると?

源氏物語』という作品の中で、紫式部はキャラクターによって和歌のクセや上手い下手までをも巧みに使い分けています。

今までは「『源氏物語』は和歌がいっぱい出てくる物語」程度にしか思っていませんでしたが、よく考えるとめちゃくちゃ凄いことですよね。

 

たまに物語の中に出てくる劇中作がめちゃくちゃ面白そう、これ普通に連載してくれへんかなと思うことがあるんですが、まさにそれですよね。

 

先ほど述べた「和歌の上手い下手」について、『源氏物語』の中では、末摘花と近江の君が和歌下手代表と言われています。

 

この二人の和歌がどう下手くそなのか、古語の知識が消え失せた私にもわかるように、俵万智さんが丁寧に解説してくださっているのですが、今いちピンと来ない。

 

「言われたらなるほどなって思えるけど・・・」と、こういう感覚です。

 

なら現代人の感覚でもわかるようにLINEに置き換えて考えてみました。

 

私の主人は文字を読むのがとても苦手で、LINEでも3行以上の文章になると読むのを諦めたり、とんでもない読み間違いをしたりします。

 

たまにいませんか?

こちらが送った質問内容に、まともに返事が返ってこない人。

そういう人は、「はい」か「いいえ」で答えられる形にして聞いてみても、なぜか意味不明な返事を返してくる。

 

元来筆まめじゃない私は、例え「ちょっといいな」と思っている男性でも、初デートの予定を決める段階で「あ、この人LINE下手くそな人やん」と思ってしまうと一気に冷めてしまったりします。

 

まさにこの感覚が「下手な和歌を詠んでがっかりする感覚」というものなのではないでしょうか?

 

これに気がついたとき、よく分からんと思っていた和歌にも、共感できる部分を見つけられた!と大喜びした私ですが、ここでさらに面白いことに気がつきました。

 

俵万智さんが言うに、和歌を詠むさいに「あえてどちらとも取れるように、複数の意味を持たせる」ことが和歌上手のテクニックだそうです。

先ほどのLINEに置き換え手法でいくと、そんなややこしいことやめてって思うんですが、それこそが和歌の上級テクニックなんですねー。

 

よく知りもしない相手に、情熱いっぱいの和歌をいきなり送りつけたところで引かれるのは当然。

ましてや女性の側からそんなゴリゴリ肉食系の和歌が来たら、いくら平安時代のプレイボーイたちもドン引きすると思います。

 

そこで和歌上手(=恋愛上手)な女性は、和歌に二重の意味を持たせるそうです。

受け取った男性が万が一ノリ気じゃなかった場合、和歌の真意をあえて取り違えて返事をすることができるようにするために。

男性が気を遣わずに断れるように、逃げ道を作ってあげるんです。

 

考えてみれば、LINEでもあえて曖昧な感じに書いて送ることってありますよね。

ただ、それはもし断られたときに自分が気まずくならない為の予防策、という側面が大きいように思います。

けれど『源氏物語』の女性たちは、相手の男性のためにそうするんです。

 

紫の上との別れを嘆く和歌を光源氏が詠んだとき、紫の上は「こんなときでも自分本位なのね」とがっかりしたのではないか、と俵万智さんは述べているのですが、自分のことは度外視で相手のことだけを考える恋愛なんてまず無理な話。

紫の上が亡くなること以上に、紫の上を失う悲しさや寂しさを嘆く光源氏の感覚の方が、現代の私たちに近いのかもしれません。

 

 

 

古典文学や海外文学を読むとき「このよくわからんどうすれば面白く読めるのか?」が、いま現在の私の読書テーマでありモチベーションだったりします。

(もちろん、現代の小説ももっと深く理解して楽しみたい!という気持ちもあります)

 

三宅香帆さんや俵万智さん、中田敦彦さんなどの、めちゃくちゃ面白い作品の面白さを凡人にも理解できるように噛み砕いて教えてくれる方たちのおかげで、私も少しずつ今まで以上に楽しい読書ができるようになってきたように思います。

 

 

 

『声をあげます』(チョン・セラン)世界観の面白さだけが”SF”じゃないと教えてくれる作品

 

2021年現在、当ブログのタイトルは『韓国語で本を読む』なんですが、ほぼ韓国語で本を読めていません。

 

当たり前ですが日本語で書かれた本の方が気軽に読めることもあり、ついついそちらを優先してしまいます。

 

ただ、韓国語や韓国文学への興味を失ったわけではないので、今回は韓国の翻訳小説を読んでみました。

 

 

 

チョン・セランさんの作品の翻訳小説は今回はじめて読みました。

 

本作『声をあげます』は、チョン・セランさん初のSF短編集だそうです。

 

計8本の短編が掲載されており、そのどれもが独特の世界観を持ったSF作品なんですが、驚いたのが短いお話だと6ページ程しかないということ。

 

SFジャンルにおける一番のキモはその世界観だと思うんですが、その肝心なキモの部分をほとんど説明しなくても面白く描けるのがチョン・セランさんの力量だと思います。

 

世界観どころか主人公の性別すらはっきりしないお話もあります。

 

 

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8作品の中でも私が一番好きなのは、「小さな空色の錠剤」です。

 

アルツハイマー患者のために開発された、服用後3時間の記憶を脳に記憶させることができる薬に関するお話なんですが、一見素晴らしいこの薬が、人類進化の歴史を大きく変えてしまうことになる、というお話です。

 

ある目的のために開発されたものが、思いも寄らない使い方で普及するってよくありますよね。

 

そういえば、気軽に車をレンタカーすることができるタイムズレンタカーが世に広まり出したとき、移動目的ではなく外回りのサラリーマンの休憩場所として活用されているという話を聞いたときは驚いたとともに「天才か」と思いました。

 

本作品で登場するこの素晴らしい薬「HBL1238」は、タイムズレンタカー以上に予想の斜め上をいく用途で広く使われることになります。

 

まずは受験生。

勉強前に服用するだけで、学んだことがドンドン脳に焼き付いていくんです。

ドラえもんの暗記パンが現実になったようなものですよね。

 

そして恋人たち。

2人の大切な思い出として一生覚えておきたい記念日の前に、HBL1238を服用するという。

HBL1238によって脳に定着した記憶はスマホで動画を見るかのようにいつでも鮮明に思い出せるので、恋人たちはデートのときに動画や写真ではなく薬で思い出を記録するようになります。

・・・この使い方は別れたとき地獄なので、私はあまりやりたくないです。でももし恋人に飲もうと言われたら揉めそうですよね。

 

中でも恐ろしかったのが、独裁国家や紛争地域でHBL1238が拷問に使用されるようになったことです。

 

なんとか拷問に耐え抜いて救出されたとしても、拷問されたときの恐怖や痛みが一生頭の中に焼き付き、最後にはショック死してしまうという・・・。

怖すぎる。

 

最後のは恐ろし過ぎましたが、こんな感じでHBL1238は本来の用途とかけ離れた目的で、人々の生活の中に溶けこんでいきます。

 

人々がみんな頭痛薬でも飲むかのようにHBL1238を常用しだしたとき、人類に恐ろしい副作用が出始め・・・。

 

こちらのお話も30ページ弱の短いものなので、なんならこれから先に読んでほしいくらいおすすめです。

 

 

 

ちなみに表題作の「声をあげます」の「あげます」は、「主張する」という意味の「声を(上)挙げる」ではなく、平仮名読みそのままの「give」の意味の「声をあげる」です。

どんなお話か気になった方はぜひ本作品を手に取ってみてください。

 

 

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チョン・セランさんの代表作でもある『フィフティ・ピープル』を読んだときも思ったのですが、チョン・セランさんは時たまドキッとするような恐ろしいブラックユーモアを放ってくるので油断できません。

 

 

 

 

そういうのは苦手!という方には、Netflixでドラマ化もされた『保健教室のアン・ウニョン先生』をおすすめします。

私はこの作品の主人公カップルが本当に大好きで、最後の文章は今でもふとしたときに読み返す程です。

 

 

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「かがみの孤城」(辻村深月)大人のみなさんは中学時代の自分をなんとか掘り起こして読んでみてください

 

今回は、辻村深月さんのかがみの孤城です。

 

 

 

 

※ネタバレになる表現があるかもしれません。

 

 

Amazonのレビューに書かれていた「驚きのラスト」という言葉に惹かれて読み始めました。

 

「衝撃のラスト」とか「大どんでん返し」という言葉に弱い人間です。

 

ただ、少し前に「トランスワールド」というパラレルワールドものの映画を見たこともあり、今回は早々にラストのオチに気がついてしまいました。

そのため「どっひゃーこれはすごいオチやわ」とはなりませんでしたが、伏線の散りばめ方と回収の仕方がとても丁寧で、普通に感動しました。

 

 

 

 

主人公は中学一年生の女の子・こころちゃん。

こころちゃんはクラスメイトの女子によるいじめのせいで、入学早々学校に行けなくなってしまった女の子です。

 

補導されたり近所の人におかしな目で見られることを恐れ、ろくに外出さえできないこころちゃん。

 

そんなある日、部屋に置いてあった鏡が虹色に輝き始めます。

 

鏡に手を伸ばしたこころちゃんは、なんと鏡の中に飲み込まれてしまいました。

 

鏡の中でこころちゃんを待っていたのは、狼のお面を被った不思議な女の子と、謎のお城。

 

城にはこころちゃんを含めて7人の少年少女が招かれていて、その7人はそれぞれ学校や家庭環境に問題を抱えている様子です。

 

狼面の少女はこころちゃん達に、城の中でとある鍵を探すよう言い、その鍵を見つけた人の願いを何でも一つだけ叶えてくれると告げました。

 

 

 

最初は学校に行けないこころちゃんの日常が描かれるのですが、率直に言って、イライラしてしまいました。

 

私の年齢が、こころちゃんよりこころちゃんの母親に近いせいだと思います。

 

学校に行けなくなってしまった娘を精一杯気遣うお母さんのちょっとした言動が、こころちゃんは理不尽だと感じてしまう。

 

三者の大人の私からすれば理不尽なのはこころちゃんの方だと思ってしまうのですが、自分が中学生だった頃の記憶を懸命に掘り起こすことで、こころちゃんに寄り添って物語に入ることができました。

 

中学生にとって学校や友人という世界がどれだけ大きいものかーー。

 

小学校や中学校の頃って、ちょっとした言動が原因で友達との雰囲気が悪くなってしまうことって良くあった気がします。

ケンカしたとまでは言えないけれど、なんとなくモヤモヤしたまま解散になった日なんて、次の日が来るのが憂鬱で仕方なかった記憶があります。

 

もし、解散した後に家が同じ方角のあの子とあの子が自分の悪口を言ってたらどうしよう、そのせいで明日はみごにされるんじゃないか、なんて、グルグルしながらお風呂に入って、翌朝学校に行きたくないけれど親に怒られるからトボトボ登校して・・・なんて経験、ありますよね?

 

今にして思うと、どえらい薄氷の上を歩いていたんだなと思います・・・。

 

まあ大体の場合、その心配は杞憂に終わって、お互い昨日のことなんて忘れて元通り、となるんですが、ごく稀にそうならない場合がある。

 

小さなヒビが波紋のように広がって、あっという間に逃げ場がなくなってしまう。

 

こころちゃんはまさに、薄氷の上で追い詰められてしまった子です。

 

しかもこころちゃんの場合、原因が自分の言動のせいじゃなかったりするので、そりゃ理不尽にも感じると思います。

 

 

すっかり心を閉ざしてしまったこころちゃんですが、城に招かれた少年少女たちとの出会いが、彼女を変えていきます。

 

 

 

 

一応、本の構成は全3章に分かれていて、第1章はこころちゃんが学校に行けなくなった理由、第2章は城に招かれたメンバーとの友情、第3章で物語の核心となる城の謎と鍵の行方が描かれます。

 

なので、第2章の途中までは少しかったるい部分も多いかもしれません。

 

でも後半は一気に加速するので、どうか投げ出さずに読んでほしいです。

 

文庫版では上下巻に分かれて販売されているようですが、できれば一気買い、もしくは一冊にまとまったハードカバー版で読んでほしいです。

 

 

 

苦しい環境に置かれた少年少女を描いた作品といえば、湊かなえさんの「未来」を思い出します。

 

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「未来」のあまりの暗さと、主人公たちの救われなさにダメージを食らった方は、ぜひ「かがみの孤城」を読んでHPを回復させてください。

 

 

 

「現実入門 ほんとにみんなこんなことを?」(穂村弘)ちょっと不思議な世界に紛れ込んでみたい人におすすめのエッセイ

 

今回の本は、歌人である穂村弘さんの「現実入門 ほんとにみんなこんなことを?」です。

 

 

以前紹介した三宅香帆さんの「副作用あります!? 人生おたすけ処方本」で紹介されていた本です。

 

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本文の一部が引用として紹介されていたのですが、それだけでもかなり面白く、すぐに図書館に借りに走ってしまいました。

 

こちらの「現実入門 ほんとにみんなこんなことを?」は、人生の経験値が極端に低いと自称する著者・穂村弘さんが、未経験のことに挑戦する姿を描いたエッセイです。

 

そう、私は経験値が低い。「家を買う」というような大きなことから「髪型を変える」ような小さなことまで、「万引」のような悪いことから「お年玉をあげる」ような良いことまで、現実内体験がというものが大きく欠けているのだ。

 

 

そんなほむらさんが、担当編集者のサクマさんという女性と初めて挑戦したのは献血

 

もうこの最初の章だけで、ほむらワールドにずっぷり引き込まれてしまいました。

 

献血ルームに来ている他人(ほむらさん曰く「常連さん」)を見て、ほむらさんの頭の中で繰り広げられる妄想が本当に笑える。

 

他にも「占い」や「モデルルーム見学」から「合コン」など、たくさんのことに挑戦するほむらさん。

 

40歳を過ぎたおじさんが、初体験のことへの恐怖を惜しげもなく晒す姿が本当に面白くて、なんだか可愛く見えてしまう。

 

それだけでなく、私は自分自身も人生の経験値が低い人間だと思っているので、共感してしまう部分もあったりして。

 

 

 

 

読み口としては、私が子供の頃大好きだったさくらももこさんのエッセイに近いかもしれません。

 

自分の血がドロドロでおいしくなさそうな理由の一つは「毎晩の菓子パン食い」だと述べるほむらさん。

この「菓子パン食い」という言葉のセンス、さすが歌人さんですよね。

 

ただ、この本にはとある仕掛けが隠されているんです。

それが担当編集者であるサクマさんの存在。

勘のいい方ならあとがきで「ああ、そういうことかー」となるのかもしれませんが、私は意味が分からずネットに頼りました。

 

種明かしを読んだ後、改めて穂村弘さんの「自分の世界に引き込む力」を思い知って、御堂筋線の車内で少しの間呆然としてしまいまいした。

 

軽くて笑えるエッセイを読んでいたはずなのに、不思議な世界に紛れ込んで帰ってきた後のような読後感を味わえる、クセ強名作エッセイです。

 

 

「いくつもの週末」(江國香織)夫や彼氏に腹が立ったときに読んでほしい本

私は夜更かしが大好きで、週末はなんなら徹夜で本を読んだり映画を見たりしていました。

 

週末だけは、リビングのソファで寝落ちした主人もほったらかしで、自分の時間に没頭する。

 

でも、妊娠が分かり早めの産休に入った途端、その習慣はどこかに消えてしまいました。

 

結婚当初に買ったダブルベッドに主人が潜り込むときに、必ず私も一緒にベッドに入ります。

 

お腹の子のためにしっかり睡眠を摂らなけれないけない、とか、妊娠中は眠くなる、といった理由もあったのかもしれませんが、何より少しでも主人と一緒に過ごす時間を作りたくなったのが大きい気がします。

 

仕事をしていたときに比べて、今の方が二人の時間は確実に増えてるのに。

 

江國香織さんのエッセイ「いくつもの週末」を読んで、その答えがなんとなく見えた気がしました。

 

 

 

本書は、江國香織さんがもうすぐ結婚三年目を迎えるサラリーマンの「夫」との日常を描いたエッセイなのですが、すごいところが、文章からも伝わるくらい、江國香織さんは「夫ラブ」なんです。

 

でもなぜか、それが惚気に聞こえない。

 

それは夫への愛情も、喧嘩をしたことも、あくまで淡々とまるで他人事のように描かれているからかもしれません。

 

夫婦関係が悪くなったときのことも「詳細は省くけれど、ともかく危機的な状況だった。」と、さらりと書くだけなんです。

 

でもそれだけで「とにかくヤバい雰囲気」だったであろうことは伝わってくる。

 

その逆も同じで、江國香織さんが夫のことを愛していることも、直接的な表現はなくても行間から伝わってくるんです。

 

他人の惚気話ほどつまらないものはありませんが、江國香織さんの手にかかるとめちゃくちゃ面白い。

 

 

 

 

 

 

 

平日は仕事のためほとんど家にいない夫と過ごす週末を心待ちにしている江國香織さんは、夫婦で過ごす週末を「南の島へバカンスにいくような感じ」だと言います。

 

その上で、

 

私たちは、いくつもの週末を一緒にすごして結婚した。いつも週末みたいな人生ならいいのに、と、心から思う。でもほんとうは知っているのだ。いつも週末だったら、私たちはまちがいなく木っ端微塵だ。

南の島で木っ端微塵。

ちょっと憧れないこともないけれど。

 

と締めくくります。

 

そういえば、私が主人と結婚した理由は「毎週末、実家と主人の家を行き来するのが大変だったから」でした。

京都〜大阪の中距離恋愛だったため、終電のことも考えると日曜日はのんびり晩ごはんを食べる時間もなく、週末のデートプランは常に「早めに晩ご飯を食べて大阪に帰る」ことを前提に練っていました。

 

一緒に暮らすようになった今では、日曜日も終電を気にする必要がないことに、未だに二人で感動することがあります。

 

「毎日が週末みたい」と、主人はよく言うのですが、いつか私たちも木っ端微塵になる日がくるのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

ここで最初の話題に戻ります。

 

私と主人は、ベッドに入ったあと、他愛もない話をしながら寝落ちするときもあれば、ベッドに入った瞬間、お互いおやすみも言わずに寝てしまうときもあります。

 

それでも一緒に眠りたくなるのは、少しでも二人の間に誤差を生まれさせたくないからなのかもしれません。

 

共働きだった今までは共有し合えていた仕事へのストレスを、自分が忘れてしまうことが怖い。

 

そこに、妊娠やつわりといった、男性がどう頑張っても100%理解することが難しい別のストレスがやってきて、理解し合えないストレスをお互いがぶつけ合うようになることを避けたかったんだと思います。

 

だから、今でも私は働いていたときと同じような時間に起きて、明日も仕事に行かないといけない主人と同じ時間に眠りについています。

 

 

「文芸オタクの私が教える バズる文章教室」(三宅香帆)読後、あなたの読書体験が変わる一冊

 

はじめましてな作家さんの本を読むとき、内容の好み以上に文章が自分に合うかどうかが気になってしまいます。

 

私はあまり癖のない、国語の教科書に乗りそうなお手本のような文章が好みです。

 

漢字とひらがなの割合もちょうど良い感じの文章が好きで、漢字が多すぎるとつい目が滑ってしまいます。

 

だからなんでしょうか。必然的に男性よりも女性の書く文章を好む傾向にあります。

 

 

今回は「この作家の描く物語が好き」ではなく、「この作家の文章の癖が好き」。

そんなことを考えさせてくれる本の紹介です。

 

 

 

 

『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(三宅香帆)

 

そうです。またまた三宅香帆さんの本です。

 

↓その他の三宅香帆さんの本の感想はこちら

 

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色んな視点から書評本を書かれていた三宅香帆さんですが、今回は書評ではなく、三宅香帆さんが今まで読んできたあらゆる文章の中から、文章の癖や表現方法、構成について紹介・解説する本です。

 

本書で紹介されるのは本にとどまらず、芸能人のブログやドラマのセリフ、スピーチなど、多岐にわたります。

改めて、「文芸オタク」を自称する三宅香帆さんの守備範囲の広さを思い知らされました。

 

そして、ふだん何気なく触れている言葉の中には、書いた人の癖や趣味趣向が多分に含まれているんだなと感じました。

 

同じことを表現している文章でも、書く人が違えばその表現方法はまったく異なるものになり、受け取る側の印象もまた違ってくる。

 

文章を書かない、いわゆる読む専の人にもぜひ読んでほしい本です。

これを読むと、今まで何度も読んだことのある文章も、きっとこれまでとは違った目線で楽しめますよ。

 

 

そういえば、一つの段落の文字数が少なめで改行が多い文章が好きなのは、スレイヤーズ世代だからなのかな、なんて思いました。

 

神坂一先生のテンポ、大好きです。