韓国語で本を読む

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韓国小説や韓国語学習書籍を紹介するブログです。

「青くて痛くて脆い」(住野よる)イライラするけど読んでしまう絶妙なむず痒さ

 

 

 

 

今回は住野よるさんの「青くて痛くて脆い」です。

 

〜ネタバレあり〜

 

 

主人公は大学1年生の男の子・田端楓くん。

田端くんは、「人に不用意に近づきすぎないこと」と、「人の意見を出来るだけ否定しないこと」を人生のテーマとしている、少し冷めたタイプの男子大学生です。

 

けれどそんな彼に、とある出会いが訪れます。

 

それが秋好寿乃(あきよしひさの)という、同じ大学1年生の女の子でした。

周囲から浮くことも気にせず、授業中に大きな声で手を上げ、自分の意見をはっきり述べる、一昔前なら「KY」と呼ばれるような言動を取る秋好さん。

 

田端くんはそんな彼女を「痛い」と感じるのですが、ある日秋好さんから声をかけられ、一緒に昼食を取ることになってしまいます。

 

自身の人生のテーマと対極にいる秋好さんから、できるだけ距離を置こうとする田端くんでしたが、あれよあれよと言う間に2人は友達と言える関係になるのでした。

 

そしてそんなある日、秋好さんの提案で、2人は「自分のなりたいものを目指す」ことを理想としたサークル「モアイ」を立ち上げます。

 

ここまでは「押しの強い電波系少女」と「巻き込まれ型のやれやれ系主人公」というラノベでよくある展開だなと思って読んでいました。

 

けれどこの物語が、どう「青くて痛くて脆い」のかが、ここから少しずつ描かれていきます。

 

 

 

 

2年半後、モアイは急成長を遂げ、「意識高い系」の人たちが集まる巨大なサークルへと発展していました。

 

 

けれどそこに、田端くんの姿はありませんでした。

彼はモアイを脱退し、自分が創設者の1人であることすら隠して就活に勤しむ日々を送っています。

 

そしてもう1人の創設者・秋好さんはというと、田端くんいわく「もうこの世にはいない」とのこと・・・。

ここで、住野よるさんの大ヒット作「君の膵臓を食べたい」を読んだことのある方なら「またこの展開か?」と思ってしまうところです。

 

 

大人数で大学内を占拠し、我が物顔でどんちゃん騒ぎをするモアイのメンバーたちと、それを迷惑がって嫌悪する人たち。

リアルな大学生活でもよくある話ですよね。

 

モアイは、創設時の「なりたい自分になる」という理想からは大きくかけ離れ、いわゆる就活支援団体に変化していました。

変わってしまったモアイに嫌気が差した田端くんは、今のモアイを潰し、元のモアイに戻すことを決意します。

 

ここからは田端くんの復讐劇ともいえる展開になると同時に、読者は田端くんの目線を通して現モアイの活動や状況を知っていくことになります。

けれど知れば知るほど、「今のモアイも別に悪くないのでは?」と思ってしまうんです。

 

ボランティア活動だけでなく、就活支援イベントを主催するモアイは、学生たちがOBOGや企業の人事と交流できる場を提供しています。

学生からすればめっちゃ良い団体ですよね。

実際「就活に使えそうだから」という理由だけでモアイに籍を置いている幽霊部員もたくさんいるようです。

 

次第に「モアイは意識が高くて痛い奴ら」だと称し、モアイを潰そうと躍起になっている田端くんの方が「陽キャサークルを僻んで極端に嫌悪する痛い人」のように見えてきてしまいます。

 

ではなぜ田端くんは、なぜこんなにも今のモアイを嫌悪するのか。

 

それは、「もうこの世にいなくなってしまった」秋好さんへの手向けのように田端くんは言うのですが、肝心の秋好さんに一体何があったのかは中々明かされません。

 

そしてその謎が明らかになったとき、読者たちは気が付きます。

青くて痛くて脆かったのは、秋好さんやモアイのメンバーたちではなく、他でもない田端くんだったのだと。

 

物語のクライマックス、秋好さんと田端くんが再会するシーンの田端くんなんて本当に痛い。

その子にとって自分だけが特別だと思っていた友人に、新しい友人がどんどん出来ていく疎外感と嫉妬。

読んでいて体を掻き毟りたくなるほどの青さと痛さでした。

 

でも、この状況って多かれ少なかれ誰しも一度は経験したことがあるんじゃないでしょうか。

 

中学・高校のときは、クラスに1人でも仲のいい友達を作れれば乗り切ることができました。

けれど、大学はみんなバラバラの授業を受け、ゼミや必修授業のメンバーやバイト先など、複数のグループに所属することになります。

「人に近づきすぎない」ことを自身のテーマとしていたことが仇となり、その環境に馴染めないまま社会人一歩手前まで来てしまったのが本作の主人公・田端くんです。

 

正直、この物語が読んでいておもしろかったかと言われると微妙なんですが、身につまされたのは確かです。

私自身、大学時代は田端くんに近い人間だったんですが、薫介やテンのような友人がいたおかげで、疎外感を感じることなくなんとか乗り切れた口だからです。

 

大学生の間で日常的に起こっているあるある話を、巧みに切り取った青くて痛くて脆い物語でした。