「かがみの孤城」(辻村深月)大人のみなさんは中学時代の自分をなんとか掘り起こして読んでみてください
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※ネタバレになる表現があるかもしれません。
Amazonのレビューに書かれていた「驚きのラスト」という言葉に惹かれて読み始めました。
「衝撃のラスト」とか「大どんでん返し」という言葉に弱い人間です。
ただ、少し前に「トランスワールド」というパラレルワールドものの映画を見たこともあり、今回は早々にラストのオチに気がついてしまいました。
そのため「どっひゃーこれはすごいオチやわ」とはなりませんでしたが、伏線の散りばめ方と回収の仕方がとても丁寧で、普通に感動しました。
主人公は中学一年生の女の子・こころちゃん。
こころちゃんはクラスメイトの女子によるいじめのせいで、入学早々学校に行けなくなってしまった女の子です。
補導されたり近所の人におかしな目で見られることを恐れ、ろくに外出さえできないこころちゃん。
そんなある日、部屋に置いてあった鏡が虹色に輝き始めます。
鏡に手を伸ばしたこころちゃんは、なんと鏡の中に飲み込まれてしまいました。
鏡の中でこころちゃんを待っていたのは、狼のお面を被った不思議な女の子と、謎のお城。
城にはこころちゃんを含めて7人の少年少女が招かれていて、その7人はそれぞれ学校や家庭環境に問題を抱えている様子です。
狼面の少女はこころちゃん達に、城の中でとある鍵を探すよう言い、その鍵を見つけた人の願いを何でも一つだけ叶えてくれると告げました。
最初は学校に行けないこころちゃんの日常が描かれるのですが、率直に言って、イライラしてしまいました。
私の年齢が、こころちゃんよりこころちゃんの母親に近いせいだと思います。
学校に行けなくなってしまった娘を精一杯気遣うお母さんのちょっとした言動が、こころちゃんは理不尽だと感じてしまう。
第三者の大人の私からすれば理不尽なのはこころちゃんの方だと思ってしまうのですが、自分が中学生だった頃の記憶を懸命に掘り起こすことで、こころちゃんに寄り添って物語に入ることができました。
中学生にとって学校や友人という世界がどれだけ大きいものかーー。
小学校や中学校の頃って、ちょっとした言動が原因で友達との雰囲気が悪くなってしまうことって良くあった気がします。
ケンカしたとまでは言えないけれど、なんとなくモヤモヤしたまま解散になった日なんて、次の日が来るのが憂鬱で仕方なかった記憶があります。
もし、解散した後に家が同じ方角のあの子とあの子が自分の悪口を言ってたらどうしよう、そのせいで明日はみごにされるんじゃないか、なんて、グルグルしながらお風呂に入って、翌朝学校に行きたくないけれど親に怒られるからトボトボ登校して・・・なんて経験、ありますよね?
今にして思うと、どえらい薄氷の上を歩いていたんだなと思います・・・。
まあ大体の場合、その心配は杞憂に終わって、お互い昨日のことなんて忘れて元通り、となるんですが、ごく稀にそうならない場合がある。
小さなヒビが波紋のように広がって、あっという間に逃げ場がなくなってしまう。
こころちゃんはまさに、薄氷の上で追い詰められてしまった子です。
しかもこころちゃんの場合、原因が自分の言動のせいじゃなかったりするので、そりゃ理不尽にも感じると思います。
すっかり心を閉ざしてしまったこころちゃんですが、城に招かれた少年少女たちとの出会いが、彼女を変えていきます。
一応、本の構成は全3章に分かれていて、第1章はこころちゃんが学校に行けなくなった理由、第2章は城に招かれたメンバーとの友情、第3章で物語の核心となる城の謎と鍵の行方が描かれます。
なので、第2章の途中までは少しかったるい部分も多いかもしれません。
でも後半は一気に加速するので、どうか投げ出さずに読んでほしいです。
文庫版では上下巻に分かれて販売されているようですが、できれば一気買い、もしくは一冊にまとまったハードカバー版で読んでほしいです。
苦しい環境に置かれた少年少女を描いた作品といえば、湊かなえさんの「未来」を思い出します。
「未来」のあまりの暗さと、主人公たちの救われなさにダメージを食らった方は、ぜひ「かがみの孤城」を読んでHPを回復させてください。