韓国語で本を読む

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<보건교사 안은영(保健教師アン・ウニョン)> フィフティ・ピープルの作者が描く学園ホラーラブコメ

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보건교사 안은영(保健教師アン・ウニョン)

정세랑著

2015/12/7刊行

約10万字

http://www.yes24.com/Product/Goods/28106823

 

 

 

 

あらすじ

私立M高の保健教師であるヒロインの안은영(アン・ウニョン)は

不思議なものを見ることができる霊能力の持ち主。

それだけでなく、BB弾の銃と虹色の剣で

邪悪なものと戦う力もあるのです。

 

彼女の勤めるM高というのが、いわゆる鬼門的な建物で

ウニョンの周りでは次から次へと怪奇現象や不思議なものが現れます。

 

ウニョンは同僚の漢文教師홍인표(ホン・インピョ)の力を借りて

事件を解決していく、というのが大まかなストーリーです。

 

ここまでだと、日本のラノベなんかでもありそうな設定です。

ですがこの作品、Netflixでドラマ化も決定するほど

人気もある良作な小説なんです!

 

≪ドラマ版キャスト≫

アン・ウニョン…チョン・ユミ

ホン・インピョ…ナム・ジュヒョク

 

※チョン・ユミという女優さんは2人存在しますが

 今回は「釜山行」「82年生まれ、キムジヨン」などに

 出演されている方の チョン・ユミさんです。

 

2020年上半期には公開予定とのこと。

ではこの作品の何がそこまで魅力的なのか、

ポイントごとにお伝えしたいと思います。

 

 

見所① 霊能力を発揮するシーンが少ない

え?と思われそうですが本当にそうなんです。

実際、ウニョンがBB弾の銃を使うシーンは

数回程度しか出てきません。

この作品はどちらかというと、

「怪奇現象に関わった人々や霊と

 ウニョンとの交流を描いた短編集」

と言った方が近いかもしれません。

日本の作品で例えると、「キノの旅」が近いでしょうか。

 

ウニョンはその霊能力ゆえに、

周りから見ると少し変わった30代女性です。

霊に憑かれた人を突然おもちゃの剣で殴ったりするんですから

霊が見えない人からすれば当然と言えば当然ですが(笑)

だからウニョンは幼いころから友達が少なく、

周囲から浮いて生きてきました。

それでも彼女は正義感と使命感を持ち、

一人奮闘し続けてきたのです。

 

周囲からは「少し変な人」認定の彼女ですが、

時には霊の友達が

いつか邪悪なものに変わってしまうのでないかと憂い、

時には金儲けの為に霊能力を使う人間を憎み、

時にはいつか誰かがこの日々に

終わりを告げにてくれるのではないかと

淡い期待を浮かべます。

 

この時点でただの学園コメディーホラーにはない

切なさが漂っていますが、

霊能力を持たないインピョの存在が

この物語をさらに面白くさせます。

 

 

見所② 邪悪なものに対する超強力な保護膜を持つホン・インピョ

漢文教師ホン・インピョは学園内で

「ゴシップを連れて歩くゴシップ製造機」と

呼ばれています。

 

その理由の一つが彼の家が財団であること。

そして財団のトップであり、

インピョの祖父こそがM高の創設者だからです。

インピョは「学園を守る」という祖父の教えを守るために

この学園に赴任しました。

同僚からすれば中々近寄りがたいというか、煙たい存在ですよね。

 

二つ目の理由が彼の片足の義足です。

若い頃、祖父のプレゼントしてくれたオートバイで

事故を起こしたインピョは

一命は取り留めたものの、

片足が義足になってしまいました。

 

そのためインピョもウニョン同様、

気の置ける友人というものに恵まれずに生きてきました。

 

そんな2人が幽霊退治のパートナーになるのですが

義足のために走ることもできないインピョが

どうやってウニョンに力を貸すのか。

それは「手を握ること」です。

 

インピョには霊や不思議なものを見る力はありませんが

彼は超強力な保護膜で覆われた存在だったのです。

そのエネルギーの凄さはウニョンでさえ驚くほど。

インピョは彼と手を繋ぐことで彼女にエネルギーを送り、

ウニョンを助けるようになりました。

 

 

 

見所③ ウニョンとインピョの恋愛模様が気になる!

「手を繋ぐ」ことでエネルギーを充電する2人ですが、

その姿を学園内で目撃され、

「付き合ってる説」まで出回る始末。

ですが、ウニョンもインピョもお互いのことを

恋愛対象外と思っているため、そんな噂もどこ吹く風。

お互いがお互いを「ちょっと変わった人」と思っている2人の

軽快な掛け合いや嫌味の応酬もこの作品の魅力の一つです。

 

このまま平行線で終わってしまうのかと思いきや、

最終話では2人の恋愛模様にもちゃんと決着がつきます。

 

ネタバレになるので詳しく書きませんが、

インピョの視点で描かれるラスト数ページはが本当にロマンチックで、

ドラマ版でこのシーンが原作の雰囲気に忠実に作られることを

切実に希望します。

 

 

 

一番お気に入りの話は「街灯の下のキム・ガンソン」

 ある日突然、ウニョンの前に中学時代の

 同級生であるキム・ガンソンが現れるのですが、

 彼の足元には影がなくて――。

 

という、短めですが作中最も切ないストーリー。

今のウニョンのルーツを知ることができるお話です。

 

ガンソンはウニョンに、

M高ではこれからも悪いことばかりが起こるから

もう辞めればいいと優しく言います。

 

それを聞いてウニョンの心は揺れます。

ウニョンはM高にいる限りずっと、

誰に褒められることもなく、感謝されることもない

孤独な戦いを続けなければいけません。

 

ですが、ウニョンは悟ります。

「数十年後、もしインピョが死んで

 幽霊になって自分に会いにきたら、

 自分にはインピョが見えるけれど

 最悪、自分が先に死んでインピョに会いに行ったとしても

 インピョは自分のことが見えない」

という事実を。

そして、これからもM高にいることをガンソンに告げます。

ウニョンは、インピョがこれからもずっと

この危険なM高で働き続けることを分かっていて、

インピョを守るためにM高に留まることを選んだのだと思います。

 

切ないシーンですが、ウニョンがインピョのことを

少なからず特別に思っていることが分かる

数少ないシーンでもあるので大好きな場面です。

 

基本的にコメディータッチだからこそ、

こういった切ないシーンが胸にきます。

 

 

日本語訳版が発売されました!

日本語訳版のタイトルは「保健室のアン・ウニョン先生」

ネタバレになるので多くは書けませんでしたが、

本当に面白い作品なのでぜひ読んでみてほしいです。

原作の韓国語版が読みたい方は

Yes24かRIDIBOOKSで電子書籍版が購入できます。

 

舞台が高校ということもあって

若者言葉が多いのか、登場人物のセリフが理解し辛かったり

辞書を引いても出てこないこともたまにあったのですが、

短編集なので難しい話はさっくり読み飛ばしてしまっても

いいと思います。

 

今、特に読みたい韓国小説がない方は

とりあえずこの作品を読んでみてほしいです。

きっと後悔しないはず。

 

続編を期待しつつ――。